コンプレッションの設定

昨日は複数のライダーさんからのセッティング相談を受けていました。
具体的な設定の数値をお伝え、実際に走行し最適化を行いました。

勘違いなさっている方が多いようなので、改めてお伝えしておきます。10人ライダーがいたとします。最適解に近い設定は10種類存在します。その人の用途、バイクのサイズ、スキルレベルによってサスペンションの設定は変わってきます。セッティングとは一番あなたに合った設定を見つけ出して頂く作業なのです。例えば、同じメーカー、同じ年式、同じモデル、同じサイズを使用するトップクラスのライダーの減衰設定を、素人レベルの私が自分のバイクで再現しても、絶対に私にとっては最適な設定にはなりえません。走行するスピードが低下するわけですから、その設定での走行は苦行となります。共通しているのはベースとなるサグの設定値だけなのです。

知っておいて頂きたいのはLSC(Low Speed Compression)やLSR(Low Speed Rebound)の特性です。オイルの通路を狭くして流量を制限すると、以前からそれらの構造についてお話してきました。例えばLSCを締め込んでいくと手に伝わってくる感覚は、次第に硬くなっていき、ストロークするスピードが遅くなります。目一杯締め込んだ状態ではロックアウトした時と同じ状態になります。
エアボリュームスペーサーを増やしたり、空気圧を上げたりして、変更するのはスプリング特性です。これによって変更できるのはあくまでもバネレートです。この設定を間違えてしまうと、その動きを制御するためには過剰な減衰設定が必要となります。

セッティングの流れを説明しておきます。今のトレンドは、とにかくサスペンションを動かす方向とお考え下さい。サスペンション自体もその方向で設計されています。
問題を解決しながら快適に近い状態を作り出します。アベレージスピードを上げる必要がなければ、そこがゴールとなります。その状態で走行スピードを上げていけば、何らかの不都合が出てきます。その問題に対して適切な対応を行っていき、再び快適に近い状態を作り出します。その状態に慣れてきたのなら再度スピードを上げて…。この繰り返しなのです。

さて実践的なお話をします。サグは出ているのだがフロントサスが動かないというご相談を受けました。サグがきっちりと出ているのなら、思い切ってLSCを開放状態にしてみて下さい。そこから必要に応じてLSCを締め込んでいけば大丈夫。HSCの調整ができるモデルならば、HSCは推奨値のままにしてください。
LSCが開放にもかかわらずストロークしないのならば、HSCを弱くしていきます。HSCはLSCの設定を保持する役目も担っています。完全に緩めた状態になると大きな力が瞬間的に入力されるとLSCとは別の回路が開き一気にストロークするようになっています。そのためHSCを完全に緩めてしまうことはお勧めしません。サグさえ、きちんと設定できていれば、HSCを推奨値よりも緩める必要はほとんどないはずです。